2018/11/10

大阪 なみはや大橋にて


ひとつきほど前に読んだ柴崎友香の『ここで、ここで』の中に「なみはや大橋」という橋が登場する。
(なみはや大橋ー大阪市の大正区と港区を結ぶ尻無川に架かる橋。全長1,790メートル、水面上高さ45メートル。
幅100メートルの航路を通すため橋の両端は急勾配になっている)

小説の中で、主人公が「なみはや大橋」を登っていく。
途中、あまりの高さになっていることに気がつき、急に恐怖心が芽生え、怯えで腰が立たなくなり、そこにヘタヘタと座り込んでしまった、という件がある。

それを読んでどんな橋なのか興味がわき、登ってみたいと思った。

快晴の今日、大正駅前からバスで鶴橋4丁目の終点を目指す。
バス停から少し歩き、IKEAの駐車場近くから「なみはや大橋」へ登頂を開始した。
最初からかなりの上り坂、ちょうどトップの高さに差し掛かる辺りは、橋が海側へ弧のようにカーブを描いていて、特に見晴らしが良い。
真下を覗くと、尻無川が内海へ注ぎ込むところの分岐点で、両岸には工場の屋根や歩いている人の姿まで、豆粒のようではあるがくっきりと見えた。
光が当たるとビリジアンに見える水面に、一瞬体が吸い込まれそうな錯覚をおぼえる。

しかし、腰が立たなくなるというようなことには残念ながらならなかった。

大阪市の全貌を海側から臨むロケーションになっている橋の上から、この街を眺める。
高層ビルが樹のように林立しているけれど、程よく隙間があって、エネルギーが東京のように集中しすぎてはいない。
山の存在も、都市が無限に広がっていくことを食い止めているのだろう。

ふだんの大阪の街をこうして歩いていると、
オリンピックをはじめ、プレッシャーに晒され続けている東京に比べ、はるかに肩の力が抜けている。
歩きタバコがそれほど厳重に取り締まりがされていない大阪では、まだそれは当たり前。
少し前の東京もそうだったよな、と振り返るが、何年前のことだったかまったく思い出せない。