2020/05/21

全方向

すこし急な坂地に建つ我が居は、東西南北に、まったく違う景色が広がる。
田園地帯の微笑ましい小径が見える東側、手前にリンゴ畑と盆地の鉢のあちら側の斜面が見渡せる南側。北側は庭の多くの部分があり、友達のようにわたしが思っているケヤキの木もある。それから小径の境界があり、隣家の敷地へと続く。
西側は隣地の林がすぐ迫っているのだが、それは2階の窓辺から高い木々をかなり近くに感じられる絶好の場所だ。
全方位すべての景色が個性を持ちかなり違うということは、10代のころは気にも留めなかった。
しかし今はその事に驚きながら暮らしている自分がいる。
東側の窓がある部屋は良い景色と朝日が入ってくる特別の部屋だとは思っていたが、西側と北側の魅力は、今初めて分かったような気がする。

北北西にある大木の幹を見ながら用を足すことができたら最高の贅沢なのでは・・・と、妄想したことがあった。
以前東京に居るときに、新しい家の設計図を勝手に作ったことがある。
それはーフォルムや外壁はロンドンで見た集合住宅と、ドイツの或る建築家の設計した住宅から着想を得ており、2階の横長の窓からはいつでもケヤキの大木が眺められる。樹を感じ、樹と共に暮らすような家だ。そしてトイレは大木の幹の近くに据え、大きなガラス張りになっている。

残念ながらいまトイレの位置は真北なのだけれど、そのことはもうあまり気にならなくなっている。