たっぷりとした波が押し寄せるような豊かな時の層、角ばったものは何ひとつなかった。
果てしなく長く続く時、というのはこういうことを言うのかもしれない・・・。
しかし、そろそろこの家をあとにしなければならなかった。わたしたちの荷物はまだ、昨夜泊まったクリニックのお家のベッドの上に置いたままだったから。
足の悪いお父さんが、家の北の坂道を登り、見送りにきてくれた。
そしてわたしたちの姿が見えなくなるまでずっと立っていた。
この光景は過去に何十回も、そして映画などでも飽きるほど観ているのに、胸を掻き立てられるのはなぜだろうーそんなことを思いながら、わたしは山道を登っていた。
そしてこの二日の体験がどこか他人事に思えるのは、確認しなくてはいけないことや、このことを話さなくてはいけない人がいるからで、まだわたしの仕事は終わっていないのだということに気づいたのだ。